名古屋高等裁判所金沢支部 平成5年(行コ)1号 判決 1994年10月05日
富山市大町一区北部四番地の一
控訴人
渡辺勇
同
控訴人
渡辺英子
右両名訴訟代理人弁護士
木澤進
青島明生
富山市丸の内一丁目五番一三号
被控訴人
富山税務署長 野村繁
右指定代理人
西森政一
松井運仁
種谷淳一郎
志賀浦実
坂本重一
今村清孝
小棹廣幸
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人渡辺勇及び控訴人渡辺英子に対して昭和六三年五月三一日付でそれぞれした昭和六一年分の所得税の更正処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者の主張
当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決二枚目裏一〇行目「税額」とあるのを「所得税額」と改める)。
第三証拠
原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本件請求は理由がないと判断するところ、その理由は、次に付加・訂正する他は、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八枚目裏一〇行目「二二、」の次に「当審証人中田久雄、」を付加する。
2 原判決一一枚目表九行目「正二は」から同裏二行目末尾までを、「正二は、右土地を既に富南地所に売却していたがそのことを告げないまま、久雄に聞いてもらいたいと返答した。そこで、多田は、六月一〇日ころ久雄の事務所を訪れ、正義所有の本件土地二(三)をわけて貰いたいと話した。これに対して久雄は、既に自分のところの別会社で一応契約ずみであると返答したところ、多田が農地転用等についてはどうなっているのかと重ねて尋ねたので、未だ農地転用申請はしておらず、手付金の段階である旨の説明をした。」と改める。
3 原判決一一枚目裏三行目「久雄に対し、」の次に「永森観光のパチンコ店開業用地として本件土地二(一)、(二)の買収を懇望しているところ、その代替地として長江ら所有の本件土地二(三)、(四)を取得したい事情を述べたうえ、」を付加し、同裏六行目「本件土地二(三)だけでなく、本件土地二(四)も併せて交換して欲しい」とあるのを、「本件土地二(一)、(二)と本件土地二(三)、(四)とを交換して欲しい」と改める。
4 原判決一四枚目裏五行目「水路」とあるのを「用悪水路」と改める。
5 原判決一六枚目裏初行「当庁」とあるのを「富山地方裁判所」と改め、同二行目「(供述)」の次に「並びに甲四三(多田の陳述書)」を、同三行目「甲三〇」の前に「当審証人中田久雄、」を各付加する。
6 原判決一八枚目表三行目「記載を合わせ考慮し、」とあるのを「記載に加えて当審証人中田久雄の証言を合わせ考慮し、」と改める。
7 原判決一九枚目表九行目「供述をしており(甲三四、三五)、」とあるのを「供述をし(甲三四、三五)、又、同人作成の陳述書(甲四三)に同趣旨の記載があり、」と改め、同裏二行目から三行目にかけて「多田の供述部分(甲三四、三五)は信用できない」とあるのを「多田の供述部分」(甲三四、三五)及び陳述書(甲四三)の内容はいずれも信用できない」と改め、同四行目「多田の供述部分」の次に「及び多田の陳述書の内容」を付加する。
8 原判決一九枚目裏末行「(各証言、供述)」の次に「並びに当審証人中田久雄の証言」を付加する。
9 原判決二一枚目表九行目から一〇行目にかけて「成立したことになるものではないことは明らかであり、」とあるのを「成立したことになるものではない。翻って考えるに、所有税法は実質課税を原則とし、客観的な事実に基づいて課税をするのを建前としていることからすると、私人間で、特定の不動産の交換契約が締結されたときに、これについて固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例を認める同法五八条一、二項が適用されるかどうかは、客観的に同条項に定める要件に該当する事実があるかどうかによって決せられるものであり、契約当事者の主観的事情によりその適用の是非が決せられるものではないと解すべきであるから、仮に、本件において交換契約の当事者が富南地所ではなく長江らであると控訴人らが認識していたとしても、そのことにより同条項の要件が充足されることにはならないことは明らかであり、」と改める。
二 控訴人らは、本件交換契約の一方の当事者が長江らであると信じて契約を締結したものであり、右は登記簿の記載及び契約書の記載内容とも一致しており、これに沿う原審における控訴人勇の供述を排斥する有力な証拠はないと主張する。
しかしながら、本件交換契約に関して控訴人側の仲介人である多田は、契約当初から本件土地二(三)が既に半年も前に正義から富南地所に譲渡されていたことを久雄から伝えられていたのであって、これに反する多田の供述部分(甲三四、三五)及び陳述書(甲四三)の内容が措信し難いことは先に認定した(原判示)とおりである。そうすれば、本件交換契約に際し、いやしくも宅建業法上の宅地建物取引主任者の資格を有し、控訴人勇と専任媒介契約を締結している多田が、前記久雄から聞いた事情を全く控訴人らに告げなかったとは、同法及び専任媒介契約の趣旨内容に照らしても推認しえないし、又、本件交換契約締結に際し、控訴人勇が契約の相手方に対し、さしたる関心も示さなかった事実(原判決理由二、2、(一)(10))に照らしても、前記控訴人勇の原審供述は、多田の前記供述調書及び陳述書同様たやすく措信し難い。
又、別件訴訟で、控訴人らに対して、久雄が一二五〇万円を、多不動産株式会社と同社代表取締役の多田が連帯して一二五〇万円を、それぞれ支払う旨の和解が成立している(甲四一)ところ、控訴人らは、右和解の事実をもって、久雄が本件交換契約の当事者が長江らではなくて、富南地所であることを控訴人らに告げなかったという重大な落ち度があったことを自認するものであると主張するが、当審証人中田久雄の証言に照らしても控訴人主張の久雄の落ち度の自認は、直ちには認め難い。又、多田が前記和解をするに至ったことについても、同人は課税されずに本件交換ができると請け合って、必ずしも売却を望んでいなかった控訴人らに交換を決意させたにもかかわらず、本件課税処分を受けざるを得なかったことに対する損害賠償の趣旨を含めて和解に応じたものと理解できるから、和解の成立は、控訴人勇の原審供述を排斥する妨げとなるものではない。
よって、控訴人の主張は採用することができない。
三 以上の次第で、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 宮城雅之 裁判官 田中敦)